展覧会から店舗が生まれた!発酵デザイナーが展覧会を開いた話

いらっしゃいませ!私たちは発酵デパートメントです

私たちは「発酵文化の記録と継承」を目指して、2020年4月に物販と飲食とイベントを核とするお店『発酵デパートメント』を下北沢にオープンしました。47都道府県、世界各地から集まる、個性的なローカル発酵品を扱うお店です。

江戸時代から変わらない製法の調味料やお漬物、その地域だけにしか知られていないような変わり種の発酵食品など、歴史やまちの息づかいが感じられる商品が集まっています。

そんな発酵デパートメント。実は2019年に開催した1つの展覧会をきっかけに生まれた事業。この記事では、3ヶ月の会期で50,000人が来場した展覧会がいかにして生まれたのかを紹介していきます。

発酵にときめいたデザイナーがいました

まずは最初のきっかけから。今から10年ほど前、東京で働いていたデザイナーの小倉ヒラクは、ふと気づけば、地場産業や農業、教育、環境などの仕事ばかりをするようになっていました。日本各地を巡って、行った先々で仕事をしていると、素敵な地域の中心地には味噌蔵や醤油蔵、酒蔵が建っていることに気づきます。

「これは一体、どういうことなんだろう?」

発酵への興味が小倉に芽生えた瞬間です。山梨県甲府市にある老舗メーカー五味醤油からの仕事の依頼をきっかけに、醸造蔵へ通う日々を過ごすように。そのなかで未知の発酵の楽しさを実感していきました。

長い歴史を背負った醸造蔵のなかで営まれている、微生物と向き合う仕事への驚き。そしてそんな老舗蔵元が山梨の街のコミュニティのハブとして、街の立て直し役をしていたことへの感動がありました。

発酵漬けの日々を過ごすうち、小倉は他のデザインの仕事が手につかなくなります。そして気づけば発酵にまつわる仕事ばかりを引き受けるように。やがて自分のことを発酵デザイナーだと名乗るようになっていました。

小倉ヒラク(@o_hiraku)
https://twitter.com/o_hiraku

大学で学び直し、行政や企業と発酵の仕事をするように

発酵への興味が高じて、小倉は東京農業大学の醸造科に研究生として入学。そこで微生物を学ぶようになり、デザイナーと研究者を合いの子にしたような発酵デザイナーの仕事が生まれました。行政からの発酵を使って地域を活気づける仕事や、企業からの発酵をテーマにした商品開発など、発酵デザイナーとしてたずさわった仕事は数え挙げれば切りがありません。

そんな風にして日本各地を巡っていると、味噌、醤油、酒といった、よく知られている食品以外にも発酵には地域限定の産品がたくさんあることに気づいていきます。隣り合う村を境に、こっちの村では作られていても、そっちの村では作られていない、というような産品が江戸時代から変わらない製造法でずっと作られているんですね。

発酵デザイナーを名乗って3年が経った2017年の終わりにもなると、小倉は発酵の専門家として活躍するようになっていました。初の自著『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎)がロングセラーになったり、テレビ局から一緒に発酵をテーマにした番組を制作してくれないか?と頼まれたりするほどに。仕事がだんだんと発展していくなかで、小倉は日本各地に残る珍しい発酵品を探すようになっていきます。

世間話を皮切りに展覧会の企画がスタート

最初はちょっとした偶然から。小倉はテレビ局の依頼で、全国の発酵食品のリサーチの仕事をしていることを友人の黒江美穂と立ち話しているときに話します。黒江はその時、D&DEPARTMENTで渋谷ヒカリエd47 MUSEUMの館長を担当。1つのテーマで47都道府県から展示品を集める企画を常に探していました。47都道府県から展示品を集める難しさをよく知っていた黒江は、小倉に「それならd47 MUSEUMで展覧会ができるね」と声をかけ、そこからユニークな展示企画のプロジェクトが始まっていきます。
https://www.hakko-blend.com/column/interview/01.html
「展示のきっかけは、〈d47 MUSEUM〉の企画編集担当の黒江美穂さんとの何気ない会話でした。『仕事で全国の発酵食品を調査したんだけど、47都道府県分あって』『じゃあ展示してみますか?』と」

小倉もそれに応え、具体的にどう進めるのかを詰めていきました。47都道府県から1品ずつ異なる発酵品を集める。それを具体的に考えていくと、問題があることに気づきました。小倉に縁のあった醸造家は必ずしも若者ばかりではない。従来の展覧会なら、醸造家から写真や商品をメールで送ってもらえば展示の情報が揃いますが、そういうことができるのは若くてITリテラシーがある人だけ。ふだんPCやスマホを使わないつくり手が多くいるローカル発酵文化を展示にするには、小倉自ら47都道府県をまわって現場を訪ねていかないと始まらない…!

「あの小さな村でしか作っていない」「あのおばあちゃんしか作っていない」そんなローカルな発酵食品を集めて展示会をしようとすると、前例にないような金額の予算が必要になります。さてどうしようか…?と考えた時に、小倉がプロデューサーとして協力を頼もうと決めたのが友達の小野裕之でした。そうして、小倉、黒江、小野という3人の展覧会事務局が立ち上がります。

黒江とナガオカケンメイさんの記事
https://ikeuchinahito.com/interview/d-department-nagaoka-kurore/

どうやってスポンサーを集めるのか?

展示をするにあたって、お金の集め方はさまざま。銀行からの借り入れや、テーマと関連する企業とのスポンサー契約、近年ではクラウドファンディングも一般的に。この時、特に力を入れようと思ったのがスポンサー契約。

展覧会のようなイベントのスポンサー契約というと、公式サイトやパンフレットに企業ロゴを掲載するようなイメージですが、それだけだとちょっと味気ない。

事務局のなかで、10年以上も社会貢献事業にかかわる営業をしてきた小野は、ただお金をもらうだけじゃなく、お金を介してスポンサー企業とパートナーになれるような取り組みを模索してきました。ロゴの掲載のようなありきたりな形式だけではなく、スポンサー企業にも事業的なメリットがあるような関係性を今回のプロジェクトでも対象企業に提案していきました。

小野裕之(@ono_chi)
https://twitter.com/ono_chi

この展覧会企画でもお互いメリットがあり、かつ今後も長く関係が続けられるようなスポンサー契約を結んでいきました。さらにプロジェクトを通してスポンサーとなる企業の事業と日本の伝統的な発酵文化が結びつくような企画や展示も企画されました。

展覧会準備の舞台裏

予算の目処がついたら、次は小倉と黒江2人の出番。小倉が47都道府県に足を運んで、展示品を集める。それを黒江に渡したら、黒江が展覧会に向けて整えていく。そして展覧会ができあがっていくプロセス、小倉が実際に訪ね歩いた様子を、テキストや写真でWeb上で発信していきました。

発信の目的は、展覧会のスタートまでに展覧会を楽しみに待ってくれる人を増やすため。でもそれだけじゃなく、開催資金を集めることにも効果が出るようにすることを意識しました。日々展覧会の準備が進んでいく臨場感を知ってもらうことで、クラウドファンディングへの参加を呼びかける広報手段としての位置付けです。

訪ね歩いた様子は会期に合わせて書籍にもまとめました
https://www.d-department.com/item/2018000100106.html

開催前から攻めの広報を意識する

この展示企画では、準備期間を含めて全ての要素に広報の意識を強く持たせています。たとえば展覧会のネーミング。小倉のたっての希望で、新しい“ふつう”を提案する雑誌『Re:S』の編集長でありローカルメディアのエキスパートの藤本智士さんをクリエイティブディレクターに招聘。「47都道府県の発酵展」のようなありきたりなタイトルではなく、開催後の波及効果も見据えて次のようなネーミングを練り上げていきました。

Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜

通称「発酵ツーリズム展」として期間中にハッシュタグで拡散されていったこのネーミング。展示全体を日英のバイリンガル仕様にしたこともあって、あえての英語のネーミング。日本の発酵文化を世界各国に発信していく狙いです。末尾のNipponを他国に変えれば、世界中で同じコンセプトの展覧会を開催できるし、世界を意識することで各国の省庁や企業とプロジェクトをするための“のりしろ”にもなる。

展覧会のネーミングを筆頭として、藤本さんと小倉を中心に、展覧会が打ち上げ花火イベントで終わることなく、10年単位で拡がっていくことを意識したクリエイティブワークを進めていきました。この長期的な視点もこの展覧会の特徴でした。

藤本智士(@Re_Satoshi_F)
https://twitter.com/Re_Satoshi_F

300件を超えるメディア掲載の衝撃!

壮大な目標を持ってスタートしたこのプロジェクト、広報担当もプロ中のプロに頼むことに。小倉が信頼を寄せる、PRのエキスパートである大木聡子さんに白羽の矢を立てます。「攻めの広報」ができる大木さんは、各メディアの編集方針や特集にあわせて、自分たちが持つ情報をアレンジして提供していくプロなんですね。

例えば、ある雑誌で健やかなライフスタイルを紹介する連載があったとします。大木さんは発酵が健康やウェルビーイングといったキーワードと発酵を結びつけ、その連載に見合った情報提供をする。掲載してほしいメディアにとって、取材や編集に割く労力を省けるような工夫をすることで、自分たちを取り上げてくれるメディアにとってもプラスになる広報をしてくれたんですね。

大木さんの働きもあって、数え切れないメディアに記事が掲載され、展覧会が終わる頃にはメディア掲載リストがいくらスクロールしても終わりが見えないくらいの量に!こうして当初の目論見どおり、発酵ツーリズム展は5万人の動員を記録する大プロジェクトになっていきました。

Fermentation Tourism Nippon の事業レポートはこちらから

次回予告

d47 MUSEUMで開催される展覧会の来場者数平均20,000人のところ、50,000人を動員した発酵ツーリズム展。来場者数はもちろん、スポンサーや醸造メーカーとの協業含め成功裡に終わったのですが、成果はそれだけじゃありませんでした。

関わってくれた醸造家たちや小倉が取材した地域にも思いがけない出来事が訪れたのですが、その経緯はまた次の話に。次回は、この展示会がお店へと発展していく様子を記事にしていきます。どうぞお楽しみに。

次回「発酵デパートメント完成!展覧会から実店舗が生まれた話」

発酵デパートメントについて

住所

東京都世田谷区代田2-36-15 BONUS TRACK内
※下北沢南西口から世田谷代田駅方面に徒歩3〜4分

営業時間

物販エリア
【平日】12:00-19:00
【土日】11:00-19:00
飲食エリア
【平日】12:00-22:00(17:00から予約制ディナーと角打ち営業)
【火曜】予約制ディナーはお休み

定休日

水曜日

運営

発酵デザインラボ株式会社
https://hakko.design/

お問い合わせはこちらからお願いします。
https://hakko.design/contact/

この記事を書いた人 発酵デパートメント

発酵デパートメントのオフィシャルアカウント。

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