日々是発酵12ヶ月 -第1回 腐乳(前編)-

台湾の街で出会った魅惑的な香り

腐乳(ふにゅう)と初めて出会ったのはいつだったか。

おそらく15年近く前、母と行った台湾旅行ではなかろうか。

博物館やお茶屋さんをまわって、街の食堂的なにぎやかなお店に入ってみた。そこで出会った空芯菜の腐乳炒め。やわらかく、クリーミーで、うまみがつよく、ほのかに香る発酵の香り。

ひとくち食べてなんだこれはと驚いた。油と、にんにく、エビ味噌のようなものと、くったりする寸前のしゃっきりがまだ残るくらい絶妙に火入れされた空芯菜。それらを腐乳がにこにこ笑いながらつないでいるような。

沖縄の豆腐ようは、食べたことがあったのだけれど、この料理につかわれている腐乳は、空芯菜の味をうまみで包み込みながらも、けして邪魔しない。塩、醤油、味噌、魚醤、オイスターソースなどの調味料のどれとも違う優しさ。これ、好き!すごく好き!ハーモニー感じる!感動してぺろりとたいらげた。

ちなみに、そのとき、台湾バジルの料理も頼んだのだが、いわゆるイタリアンバジルではなく「九層塔(ジウツェンダー)」というミントのような爽快感と八角のような香りのめちゃくちゃおいしいバジルだった。その鮮烈な味も忘れられず、食堂のおばちゃんに「腐乳」「九層塔」と書いてもらった紙を握りしめ、まだまだ世界には知らない美味がたくさんあるんだなとワクワクしながら帰国したのを覚えている。(九層塔とホーリーバジルは一緒?誰か詳しい方教えてください)

ベスト腐乳との出会い

その後の爆発的な腐乳体験は数年前。

友達と毎年台湾旅行をしているのだけれども、そのときに毎年つきあってくれる台北在住の友人、栖来ひかりちゃんが、大安にある北方の葱餅屋さん「泰家餅店」で売っている腐乳が絶品だと教えてくれたこと。

泰家餅店 HPより(https://www.27057255.com.tw)

飛行機で持ち帰るには大きい20センチほどの大瓶にひるみかけたのだけれども、食い気が勝り、一瓶買った。帰国してから食べてみてまたまたびっくり、こんな美味しい腐乳、食べたことがない。塩水につかっているものしか食べたことなかったけど、こちらは油につかっている。おおきくゴロンと入っている豆腐のかたまりはチーズのようなうまみ、なめらかな舌触り。胡椒と花椒が効いていて、箸が止まらない。

人生ベスト腐乳に出会ってしまい、それ以来、腐乳を自分でもつくってみたくなった。

はじめての腐乳熟成は豆腐よう

数年前に食をテーマにしたグループ展で、発酵物をたくさん並べてさまざまな微生物が浮遊する空間をつくる展示をしたのだけれど、そのときに豆腐ようはつくったことがあった。

角切りにして水気をふいて泡盛をまぶして消毒した島豆腐をザルに並べて置いておくと黄色いカビが生える。それを麹、紅麹、泡盛、塩、砂糖などでつくったつけ汁につけて熟成させる。

黄色いカビがはえた時点で、食べることをひるんだのだが、できたものをおそるおそる口に入れてみると思ったよりも上出来の豆腐ようだった。

中国では、白い毛のようなモケモケしたカビが生える。昨年末に行った四川の市場では、毛のついた大量の豆腐たちが並んでいた。カビの種類が違うので微妙に味が異なるのか。

さらなる腐乳を求めて

新小岩にある貴州料理店「貴州火鍋」の林さんに、藁を敷いたダンボールに入れて、風のよく通るところに置いておくとカビがつくと教えていただいたので、やってみることにする。

できあがりは、油で漬けるバージョンと、塩水で漬けるバージョンと両方つくってみたい。辛いのもやってみたいし、スパイシーなものやってみたい。岡山で紅麹をつくっている方がいるという噂をヒラクさんから聞いたので、取り寄せて紅麹バージョンもやってみたい。

ああ、夢がひろがっていく。

とりあえず、豆腐たちを切って、さっと白酒をまとわせた後に、やさしく水気をふいてあげて、ダンボールのおうちの藁のベッドに寝かせてあげる。ああ、すっかり我が子のような気持ちになってきた。かわいい豆腐たちよ。カビても嫌いになんてならないからね。

(第1回後編に続く)

この記事を書いた人 三原 寛子

食に関する企画提案や編集物の制作、アートプロジェクトでの作品制作展示、雑誌やWEBなどの料理紹介、商品開発や店舗のフードディレクションなどを行う南風食堂で活躍。発酵デパートメント飲食部門の料理監修。

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