日々是発酵12ヶ月 -第2回 鮒鮓(前編)-

滋賀県の伝統発酵食・鮒鮓

鮒鮓(ふなずし)を習い始めたのは6年前。cro-magnonというバンドのギターのつよしさんの彦根のご実家で毎年鮒鮓を漬けているというのを聞いて、鎌倉の友人に誘ってもらって見学に行くことになったのが始まり。

つよしさんのおばあさまの花さんに鮒鮓を漬けるのを見せていただいた。そこから毎年2回、鮒を漬けるときと、樽を開ける時期に毎年彦根に通うようになった。


毎年、つくった鮒鮓を持ち寄り、食べ比べ。不思議なことに同じ日に漬けても、それぞれのお家で発酵させたら違う味になる。

数年前からはお手伝いだけではなく、マイ樽をつけるようになり、鮒鮓の魅力にどっぷりはまってしまった。

鮒鮓とは?

鮒鮓を知らない方に簡単にご説明します。鮒鮓は、琵琶湖周辺でつくられている鮒(ふな)のなれ鮓。

 

こんな感じで炊いたごはんと鮒を漬けます。

なれ鮓とは、魚を塩と米(炊いたごはん)で漬けて発酵させた発酵食品であり、西暦2世紀くらいから東南アジアで用いられていて歴史はとても古い。

―――紀元前四~三世紀に成立したとされる中国最古の辞書『爾雅』(じが)(周代から漢代にかけての、さまざまな経典や諸経書を採録、解説した書)には、すでに「すし」についての記述があるが、それによると「鮓(さ)」というのが魚の貯蔵品、「鮨」というのが魚の塩辛、「魚に右に皿」(かい)が肉の塩辛で、その素材には鯉、草魚、鯰などの川魚、鹿、兎、山鳥などの肉が使われていた。このようにすしの元祖は魚や肉の漬け物とみてよく、今日の私たちがすしに持つイメージとは多いに異なるものだった。(小泉武夫さんの「発酵食品礼賛」文藝春秋社より)

内蔵を抜いた鮒を塩蔵(塩きり)し、うろこを取って掃除をして、炊いたごはんと交互に樽に漬け込む。重しをして、半年ほど空気を触れさせず密閉状態で漬け込む。ごはんの乳酸発酵により、菌がつきにくいPHになり保存が効くようになる。更にたんぱく質が分解されてできたアミノ酸によりうまみが増す。

彦根でも、麹を入れて酸味を丸くしたもの、麹を入れずに酸をパキっと効かせたものと、地元でも好みが分かれるようだ。よく鮒鮓が苦手という話をきくが、上手につくられた鮒鮓はまるで花のようにやわらかい芳しい匂いと味がする。

味ではなく、生命力がおいしい

味もおいしいのだけれども、わたしが鮒鮓にはまってしまったのは、その生命力だ。

真夏の暑い日に樽に漬け込む作業をするのだけれど、暑くてヘロヘロになっていても、鮒鮓を出していただき、一切れ食べただけでびっくりするほどシャキっと復活する。鮒屋さんで聞いたのだが、地元では、妊婦さんが「風邪をひかない子供に育つから」と買いに来るそう。そのお店のお子さんもまったく風邪をひかないと言っていた。


鮒を釣るところからやってみた!釣れたどー!!

鮒自体に、滋養があり、母乳の出もよくなるそう。7月くらいに鮒鮓を樽に漬けるのだけれども、真夏の暑い盛りは、35キロくらいの重しをしていても、ぐらぐら動いてしまうくらい強烈に発酵している。そもそも生命力が強い鮒を、そのまま骨まで食べられるくらい発酵させる乳酸菌たちのエネルギーたるや!

わたしの鮒鮓師匠の花さんも90歳を越えても、とっても元気。彦根に通うようになり、友達も増え、野菜と音楽のイベント「ギブミーベジタブル」を開催したり、友人の鮒鮓仲間の発酵居酒屋5の鈴木大輝くんが「鮒鮓サミット」をするようになって、彦根や琵琶湖周辺の方がつくられた鮒鮓もたくさんいただいたのだけれど、やっぱり花師匠の鮒鮓は特別。こんなうまいものが世の中にあるのだろうかと思う。味ではなく、生命力なんだよなあ。


野菜のイベントのポスターになってくれた花師匠♡

花師匠が鮒鮓をつくっているのだけれど、今まで花師匠がつくって食べてきた鮒鮓にも花さんがつくられている気がする。そんな目に見えない特上の乳酸菌に包まれた魔法の手のちからにあやかりたくて、いつも鮒鮓を漬けるときは、最後、花師匠にポンポンしてもらうようにしている。

アジアにもルーツのあるなれ鮓

ちなみに、アジアでなれ鮓のルーツをたどると中国、タイ、カンボジア、ラオス、ミャンマーなどでつくられている。スープにしたり、炒めものにしたり、いろいろ活用されている。動物性タンパク質を摂るための貴重な保存方法だったのだろう。

「これめちゃおいしいじゃん」「保存も効くし、いいよね。やってみて」とかで山を越え、海を越えて伝わって伝わってきたのだろうなあ。アジアでのなれ鮓の流れについては石毛直道先生とケネス・ラドルさんの「魚醤とナレズシの研究 モンスーン・アジアの食事文化」岩波書店という名著があるので、ご興味ある方はぜひ!

次回は、そのままで食べるのが一番なのだけど、鮒鮓を使ったのおすすめアレンジレシピ、ミャンマーで教えてもらったなれ鮓料理をご紹介しますー!

___________________

前回までの連載はこちら↓

日々是発酵12ヶ月 -第1回 腐乳(前編)-
日々是発酵12ヶ月 -第1回 腐乳(後編)-

 

この記事を書いた人 三原 寛子

食に関する企画提案や編集物の制作、アートプロジェクトでの作品制作展示、雑誌やWEBなどの料理紹介、商品開発や店舗のフードディレクションなどを行う南風食堂で活躍。発酵デパートメント飲食部門の料理監修。

発酵MAGAZINEHAKKO MAGAZINE

発酵チャンネルHAKKO CHANNEL