【小倉ヒラクの発酵沼へようこそ!】第2回:「セレクト」ショップにしない理由

こんにちは。発酵デパートメント店主の小倉ヒラクです。
お店ができてからもうすぐ半年。最近は色んな人から関心を持ってもらえるようで、お店がつくった経緯やコンセプトについて聞かれることが増えてきました。

でね。最初にひとつ言っておきたいことがあるのです。
発酵デパートメントは、セレクトショップ「ではない」ということです。

セレクトよりも大事なこと

下北沢の発酵デパートメントの店舗には、現在450ほどの発酵プロダクトを取り扱っています。
そのほぼ全ては、僕が実際に訪ねたり醸造家と縁があるところの商品です。いわゆる仲卸のカタログを見て「これとこれにしよう」と商品を選ぶことはしていません。僕自身が10年以上あちこち歩いて回って出会った商品が集まっています。

「ということは、ヒラクさんが美味しい!と認めた商品のお店なんですね?」

実はですね。そうじゃないんですよ。正直言うと、

「な…なぜこんな不可思議な味に?僕には理解しかねる…」

という商品も置いてあります。つまり僕の価値判断の外側にあるものも置いてるんですね。
そういう意味で、発酵デパートメントはセレクトショップではない。

だって、店主である僕が「自分の価値観(もっと言えば美意識)」で決めているわけではないのだもの。

世界の発酵みんな集まれ!

お店を立ち上げる時に、経営チームの黒江さんから「お店のコンセプトを言語化してほしい」と言われました。さてどんなものが良いかしら…?としばらく考えた結果たどり着いたのが、

世界の発酵みんな集まれ!

でした。「○○の課題解決をしよう!」「△△で社会を良くしよう!」みたいなミッションやビジョンではなく「みんな集まれ!」という目的のない呼びかけ。つまり『集まれどうぶつの森』といっしょです。

僕のキャリアのスタートはソーシャルデザインだったので、長年課題解決型の事業を手掛けてきました。なんだけど、発酵デパートメントにはそういうソリューション型のコンセプトは合っていないと思ったのですね。

世界中に星の数ほどある発酵ブツを全部集めるぞ!
…という、僕の一生かかっても成し遂げられるかどうかの果てしない作業があり、その作業には意味づけはしない。集めるのは楽しい。そしていっぱい集まれば集まるほど、何か楽しいことが起こるよね!それが何かよくわからないけどね!

こうして使命も意味も目的もないコンセプトが誕生したのでした。
集まれ発酵の森!

課題はいつか解決される

「世界の発酵みんな集まれ!」の合言葉(もはやコンセプトですらない)には、実はいいコトがけっこうあります。

・課題がないので解決がない
・集める対象が多すぎて終わりがない

課題解決型の事業は、解決してしまったら存在意義がなくなります。掲げたビジョンが社会に受け入れられて現実になってしまったら、やっぱり存在意義がなくなります。2000年半ば頃から課題解決やビジョンを掲げて起業したビジネスモデルが、十数年経ってみたらわりと当たり前になり、パンクであったものがスタンダードになっていることがけっこうあるのです。

この社会は割と捨てたものではなく、共感の集まる理念は現実を変えるのです。
しかも、事業を起こした当人の予想をしばしば上回るほど社会が変わる流れは速かったりする。
理想は現実になり、理想を現実にする過程にしか存在し得ない課題解決型ビジネスは立ち上がりは強いが、実はそんなに長生きできないかもしれない。

僕は発酵が好きです。
そして発酵には、僕というひとりの人間の時間軸や構想力をはるかに上回る文化の蓄積と可能性がある。そんな大きなテーマで事業を起こすわけなので、僕個人の使命感とかビジョンとかは不要。とにかくもっと知りたい!集めたい!と頑張るうちに、勝手に意味がくっついてくるでしょうと思ったわけです(別にくっついてこなくてもいいんだけど)。

厳選したホンモノなんて幻想である

で話を冒頭に戻すとだな。
「世界の発酵みんな集まれ!」の合言葉にのっとると、好き嫌いで商品を選別することができない

その前提で、発酵デパートメントの商品棚を見てみましょう。
例えば醤油。僕が個人的に縁のあった蔵のなかから、各カテゴリー少数ずつピックアップする形式をとっています。濃口、薄口、再仕込、たまり、白醤油の標準5カテゴリー+九州醤油と魚醤の7カテゴリーを網羅すること。これが何より大事。

日本だけで1000を超える醤油蔵があるので、全てのメーカーの全ての銘柄を揃えるのは物理的に難しい。なので、この店にきたら、お客さんが全てのカテゴリーを一通り手に取れるようにすることを目指しています。味噌や酢など他の調味料をその方針で商品を揃えていて(もちろん完璧ではないのですが)、他にも「どのカテゴリーに該当しない不思議なローカル発酵ブツ」も置けるだけ置く!というポリシーです。

例えば、麹なら普通の米麹だけでなく、麦麹や黒麹、さらに麹を手づくりするための種麹も四種(米・麦・豆・醤油)置いてあります。大豆を使わない醤油や味噌(厳密に言うと醤油や味噌とは名乗れないのですが)も置いてあります。

で「全てのカテゴリーの網羅」を目指して商品を集めていくと、仕入れる人(僕や商品担当スタッフ)が必ずしも美味しいと思えないものも積極的に取り扱うことになるのです。

例をあげると、一般的にはめちゃ甘い九州醤油。
キリッと辛口の濃口醤油が一般的な関東で育った僕としては、九州醤油の異次元の甘さは「えっ??これでお刺身食べるの??」となります(小さい頃佐賀によくいたんですが、九州醤油はニガテでした)。しかし店頭にいると、お客さんからちょくちょく「九州のお醤油はないの?」と訪ねられるので、試しにいくつかの銘柄を取り扱ってみると思いのほか売れ行きがいい。きっと九州にルーツのある人や、甘い調味料が好きな人に連れて帰っていってもらっているのでしょう。

発酵文化には地域性があり、好みによる味の多様性がある。
「いちばんおいしい」という絶対の正解はなく、手に取るその人ごとの「しっくりくる」があるのみ。

そういう発酵文化の特性からすると、セレクターの好みによって「ホンモノだけを選びました!」みたいな商品ラインナップは嘘くさい。ホンモノもニセモノもないんだぞ!と僕は思ってしまうわけです。

甘味料やアミノ酸を添加する九州醤油。それはある視点から見れば「ホンモノじゃないもの」かもしれない。でも九州の土地土地で支持されて「やっぱ醤油は甘くないと!」と思う価値観が継承されて文化になっているのなら、やっぱりそれは尊いものだと思います。

で「???」と思いながらも、九州醤油の蔵を訪ねてテイスティングしているうちに、

「あれ?美味しいぞ??僕の理解が足りなかったんだな…すまなかった…!」

と価値観が変わったりするのです。

目利きが厳選したセレクトショップ。それは確かに自分の目で選ぶ手間を省けて「ホンモノを買った!」という満足感を得られるかもしれませんが、いっぽうで目利きする側が必要以上に権威化する危険性も隣り合わせ。良いバランスで売り場をつくっていきたいものです。

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