【小倉ヒラクの発酵沼へようこそ!】第8回:山梨のワイン文化に見る、作り手と受け手の関係性

僕は6年ほど前から、山梨県甲州市という場所で暮らしています。ここは勝沼ぶどう郷地域をはじめ、50近いワイナリーが集まる、日本一のワイン銘醸地。市の主産業は、果樹栽培とワイン醸造。

秋になると地域のあちこちからワインを醸す酵母の香りが漂い、丘を埋め尽くすぶどう畑が虹のように紅葉していく、日本の他の土地にはないであろう、不思議な里山風景を見ることができます。

土着のブドウ酒文化

古代からブドウの栽培地だったこの地域では、明治初頭からの150年近いワイン醸造の歴史があります。ブドウ農家たちが商品として出荷できないブドウを持ち寄り、共同醸造所で酒に醸して自家消費していたのです。

ワインというと、立派なフレンチレストランでかしこまって飲むもの…というステレオタイプなイメージがありますが、ここでは農家の晩酌、つまり地酒。僕の住む集落のおじいちゃんおばあちゃんは今でもこの地酒を「ブドウ酒」と呼びます。

山梨に通い始めた当初に出会って衝撃だった光景は、夜にステテコ姿のおじいさんがナイター見ながらちゃぶ台で湯呑に赤ワインどぼどぼ注いで飲む姿。そして肴はマグロのぶつ切りとほうれんそうのお浸し!日本酒は高級だから、盆と正月と冠婚葬祭の時しか飲めねえな…なんてつぶやきながら、ごくごく地ワインを飲む姿に、

「舶来文化も100年以上経つと土着化するものだ…」

と深く納得したものです。

コスパ◎のワインが流通できる理由

でね。
最近は国産ワインがブームになってきて、山梨以外にも美味しいワインをつくるメーカーがたくさん出てきているのですが、山梨のワイン大国っぷりはやはり頭一つ抜けている感があります。

その大きな理由は「値段」。

ここでは日本酒用の一升瓶に入ったワインが、最安で1000円ちょっとでスーパー(場合によってはコンビニでも)売られていたりするんですね。普通のワインボトルに換算すると、ひと瓶あたり500円くらいなので、確かに大半の日本酒より安く、輸入のチリや南アフリカの旨安ワインよりもコスパいい。

山梨以外では、この一升瓶ボトルの価格はもちろん、普通の750mlボトルも1500円以下では売るのが難しい。どうしてもおみやげ物価格になってしまうことがほとんど。
(なお同じく古くからのワイン大国である長野、北海道、山形の一部の地域でもかなりリーズナブルなワインをゲットできます)

それはなぜかと言うと「地元の老若男女が地酒としてワインを飲む」という習慣が根付いていないからなのです。山梨では、ワインをつくれば必ず買って飲む人がワイン好きでなくても一定層いる。だから計画的に安定した量をつくれて、値段もリーズナブルにすることができる。

つまりマーケティングやブランディングしなくても飲んでもらえる。街場の銭湯とか中華料理屋さんとかそういうレベルでワイン醸造業が成り立っている。「普及している」という下支えがあって、良コスパの量販店から一本5000円以上の高級酒まで様々なラインナップをつくることができ、その文化の分厚さがまた飲み手を喜ばせる。

山梨のワイン文化を見ていると、作り手がいくら頑張ってもそれだけでは文化が成り立たないことがわかります。飲み手の応援や、根付いてきた歴史という土壌のうえに文化の種が芽吹いていく。

文化の「嶺」は作り手の才能によって短期間で生み出すことができるけど、「裾野」は受け手の日常的な習慣が何十年もかけて地ならししていくもの。甲州ワインを見ているといかに受け手と作り手の関係性と時間の蓄積が重要かを思い知らされます。

発酵デパートメントでも、山梨のワインのように時間をかけて作り手と受け手が励まし合う文化の土壌をつくっていきたいと思っています。

山梨名物!甲州ワインはこのサイトでもゲットできます

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