YouTubeで大好評のコンテンツ、発酵デザイナー・小倉ヒラクが「発酵」にまつわる疑問・質問に答えていく新コーナー「発酵道場」が記事になりました。
第1回はそもそも「発酵ってなんだ?」というお話。「発酵と腐敗って何が違うの?」「発酵食品ってなんで体にいいの?」など意外と知らない発酵のイロハをお教えします!
みなさん、発酵してますか?発酵デパートメントの小倉ヒラクです。
発酵デパートメントをオープンしてから発酵を好きな人にたくさんご来店いただき、マニアックなものをお買い求めいただく一方、それと同じくらいビギナーの人も多い印象があります。
いろんな商品があって面白そうなんだけど、「そもそも発酵って何?」ということを結構聞かれるようになりました。なので、この「発酵道場」にて、「発酵ってそもそも何?」「お味噌ってなに?」「お酢ってなに?」という発酵の基本をお話ししていこうかなと思っております。
記念すべき第1回はズバリ「発酵とは?」
そもそも発酵とは何かというと「人間に役に立つ菌の働きのことを発酵」と言っています。
もっと厳密な定義をいうと「太陽光も酸素も使わないエネルギーの代謝」を発酵といいます。ただ、これだとよくわかりませんね。
なので、「発酵とは、人間に役に立つ菌の働き」と考えてください。
たとえば、お味噌を例にしてみましょう。お味噌の原料は大豆ですね。大豆を煮て、そのまま置いておいたとしましょう。
ちゃんとお味噌になるように発酵したら、香りも良くなって、美味しくなって、腐りにくくなります。
逆に、手を加えずそのまま放っておくと、でろっとして溶けちゃいます。酸っぱい変な臭いがして、「あ、これ食べたら死ぬな」って味になっていく。つまり、腐ってしまったということです。
みなさんが今ふつうに生活している空間上にも見えない微生物がいっぱいいて、ふわふわ浮いています。
その中で「いい菌」もいれば「悪い菌」もいるんです。煮た大豆をおいておくと、その「菌たち」が、取り合いをしにくるんです。
運よく「いい菌」が入ったら、発酵して味噌になって、美味しくなる。悪い菌が入ったら、でろでろになって、腐敗して、食べられなくなる。
そう考えると、「発酵」「腐敗」は同じ現象なんですね。菌の種類が違うだけなんです。その時入ってくる菌が人間にとって「いいやつ」か「悪いやつ」かということ。
これが発酵と腐敗の基本的な違いです。
発酵と腐敗の境界線はグレー
このお話をすると、「発酵と腐敗のボーダーはどこですか」とよく聞かれるんでが、答えはズバリ「ありません」
例を挙げましょう。「くさや」を知っていますか?「くさや液」という漬け汁に魚を漬けて発酵させ、その後天日で干した発酵干し魚です。
くさや、嗅いでみたらわかりますが、マジで臭いです。
10人いたら、8人はちょっと食べられない…と思うけれども、2人はすごく好きみたいな感じで好みがわかれます。
この状況を説明すると、食べられないなと思った8人からすると「腐ってる」ということになりますが、好きと答えた2人にとってはイケてる。おいしい発酵食品だね、ということになります。
もちろん、明らかに腐って人間にとって毒になってしまっている状態のものはありますが、「発酵」と「腐敗」の間には、かなりグレーゾーンがあります。
グレーゾーンを分けるものは、結構「好み」だったりするんです。
人間同士で考えてみてください。恋愛対象の「好きなタイプ」って、イケてる・イケてないのボーダーってはっきりわかれてるわけじゃないですよね。ある人にとってはイマイチかなと思うところが、他のある人にとっては、個性的でステキに見えたりする。
そんな感じで「発酵」と「腐敗」の境界線上にはせめぎあいみたいなものがあって、腐ってるようなニオイなんだけど、実はある人にとってはめっちゃ魅力的、みたいな。
そういう人の好みによってもわかれる「グレーゾーン」は、発酵食品の文化としての面白さのひとつじゃないかと思います。発酵文化がグルメな人たちの興味を激しくそそるポイントだと思うんですよね。
発酵のメリットってなんだ?
発酵すると、人間にとってどんな良いことがあるんでしょうか。
ポイントは3つあります。「①腐らない」「②健康にいい」「③おいしい」です。順に見ていきましょう。
1つめは「腐敗を防いで保存できる」こと。たとえば、お味噌。先ほど煮た大豆の例もあげましたが、お味噌になると1年たっても腐らなくなります。
2つめは「栄養満点!健康になる」こと。発酵食品はいま健康志向の人たちの間でも人気ですが、実際、最近の微生物学によっても健康への働きなどが、わかってきています。
3つめは「美味しく芳しくなる」こと。毎日、煮た大豆をたくさん食べるってちょっとしんどいと思うんですが、お味噌汁だったら、毎日食べても飽きない複雑な味と美味しさがあると思います。
腐らずに発酵するメカニズム
発酵食品は微生物が作ってくれるという話はしましたね。
微生物には、いくつかのカテゴリがあります。
例えば、麹菌はカビの一種なんですけど、このカビがお米とかにつくと「麹」になります。
酵母だったら、麦につくとお酒になって、ビールができます。
乳酸菌は、牛乳に入るとヨーグルトになるし、野菜に入ると漬物になりますね。
納豆菌は、大豆とかにくっつくと納豆になります。アフリカだとパルキアという木の実に納豆菌をつけて納豆作ったりします。
では、これらの微生物によって発酵した結果、「腐敗を防いで保存ができる」ってどういうメカニズムか不思議ですよね。
最初にお話したとおり、空間にいる微生物たちが、ある食べ物を巡って戦います。いい菌と悪い菌が取り合いをするわけです。相撲の取り組みみたいなイメージをしてほしいのですが、ある菌が頑張って土俵を占めると、別の菌は閉め出されて入れなくなっちゃう。
満員の女性専用車両をイメージしてみても良いです。
電車に女性がぎっしり乗っていると、男性は乗りづらいですよね。ちょっとここには乗れないなぁ、みたいな感じになるでしょう。
こんなイメージで、ある発酵菌がそこの場を占めていると、ほかの菌は入れなくて、結果的に腐らないということが起こります。
それ以外にも、発酵菌が作るアルコールや酸が、腐敗させる菌をブロックする働きを持っていたりします。そういった働きによって、発酵食品は腐りづらくなるんです。
発酵菌が出す「酵素」のおかげ
発酵菌の特殊な働きで酵素というものがあります。
発酵菌は食品の中にある栄養を小さく分解していきます。その分解してできた栄養が、例えば人間の健康を保つために必須のアミノ酸とかビタミンとかだったりする。栄養が小さくなるので、消化の吸収も良くなりますね。
また、そのアミノ酸とかビタミンとかが合わさったりすると、すごく美味しく感じる。
これが発酵食品を「おいしく」「栄養豊富」にする菌のはたらきです。
次回は、「こうじ」について解説します。お楽しみに!