継承されてきた文化と暮らしの認定「世界農業遺産」
世界農業遺産(GIAHS)とは、社会や環境に適応しながら何世代にもわたり継承されてきた独自性のある伝統的な農林水産業と、文化、ランドスケープ・シースケープ、農業生物多様性などが相互に関連して一体となった、世界的に重要な伝統的農林水産業を営む地域を、国際連合食糧農業機関(FAO)により認定するシステムです。
つまり、「技術」や「場」などに限定せず、その土地の「人の暮らし」までもを含めて遺産として捉えています。その世界農業遺産として、2015年12月に「清流長良川の鮎」が認定されました。
発酵デパートメントも長良川といえば、アユのなれずし!その生まれ故郷・長良川のキーマンを訪ねる旅レポートです!
川と共に働く漁師・平工顕太郎さん
長良川で木造和船と伝統的な漁法を続ける、現役世代としては唯一の専業川漁師である平工さん。実際に平工さんの船で長良川へと漕ぎ出します!
舟上でアユの説明をしてもらいながら、漁の様子も目の前で見せてもらいました。
あっという間に川の中を進んで、目視で網を投げるタイミングを見極める職人技。
アユ漁は季節や天候、水位が数センチ変わっただけでも、それぞれの状況に合わせる必要がありますが、特に印象的だったのは「食み跡(はみあと)」を見ること。
鮎は川石に付いた苔などを食べるため、水が引いている場所の石をよく見ると、鮎が食べた口の跡を見ることができます。
どんな場所に、どれくらいのサイズの鮎が来ていたのかを、この食み跡から分析し、次の漁に活かしていく。自分の目で自然を紐解き、向き合う漁のあり方から、川と共に生きる姿を目の当たりにしました。
木造和船を使うのも、ファッションとしてではありません。水位の浅いところを進んでいくには、FRPの船よりも軽く安定する木造和船の方が適しているという理由があります。
良質な川の環境が保たれるためには、森や海まで一連の繋がりとして考える必要があり、自然と協業する生業である川漁師。専業でやるには、ただ漁をしているだけでは成り立ちません。平工さんは自身の働き方を通して、川と共に働くことの可能性を広げているキーマン。
平工さんから鮎の季節ごとの違いや、熟鮓のつくり方なども教えてもらい、発酵デパートメントでも季節に合わせてご紹介する予定です!
長良川のテロワール料理人・泉善七さん
「鮎のは川のテロワール」と話す、川原町「泉屋物産店」の5代目店主・泉善七さん。
鮎のなれずしは、子持ち鮎の内臓と卵を取り除かず丸ごと漬けます。平工さんに教えてもらった通り、アユは虫などを食べず、苔などを食べるベジタリアンな魚なため、臭みがなくなりますが、特に泉さんのなれずしは臭みがなく、ふわっとした香りが、まさに川のテロワール…!
発酵デパートメントオンラインストアでも取り扱っています!
鮎の塩焼きは焼き加減が命。泉さんの塩焼きは40分かけてじっくりと焼き上げ、もう、その食感や絶妙な香ばしさとほろ苦と旨味のバランスは絶品です。
また、これまでの鮎料理に縛られず、様々なジャンルの料理で鮎の美味しさを表現しています。思い出しただけでよだれが出る、鮎ピザ!
こちらに使われている「鮎の白熟クリーム」は、なれずしの熟成した米に生クリームなどを加えた一品で、発酵デパートメントでもフライドポテトと一緒に楽しめます!クリーミーな旨味が熱々ポテトにとろけて、やみつきな人気メニュー!!!!
鮎と向き合い、「調理」にとどまらない「研究×表現」をしている泉さん。料理人であり、研究家であり、アーティスト!鮎を食べるなら、まず初めに絶対的にオススメします。
長良川案内人・蒲勇介さん
今回の長良川ツアーを企画してくれたのが、NPO法人ORGANの理事長として、ショップ「長良川デパート」の運営や、ツアーやギャラリー企画など、長良川の文化を幅広く伝える活動をされている蒲さんです。長良川のことなら蒲さんに聞いたら間違いナシ!
写真右側、鮎の違いを説明する蒲さん。
県内の方向けの鮎ツアーにご一緒させていただき、実際に鮎を獲る現場や稚魚を育てる「魚苗センター」までも見せてもらいました。
その場で獲った鮎や、受精作業なども間近で見学。漁師の皆さんが、鮎はもちろん、長良川の自然を大切に自分ごととしてお話される様子に、漁をすることがその土地の風景や文化を守っていく活動なのだと実感します。
そして、もちろん、その場で堪能!!
串刺しの方法も教えてもらいましたが、右が同行してもらった料理家・三原寛子さん、左が私ですが… 差が歴然(汗)
三原さんとは、鮎のなれずしワークショップなどできたらいいねと思案中です。皆さんと長良川の食文化を一緒に体験していただく機会を準備できればと思っています!
なかなかツアーでも行くことのない「魚苗センター」では水槽を見せてもらい、目を凝らさないと見えないくらいの稚魚を見せてもらいました。
半年以上の飼育管理を行い、ふ化してから3ヶ月程度は人工海水、その後淡水に切り替えて、放流するサイズまで飼育する施設。遺伝子の多様性に配慮し、天然親魚からの採卵を行い育てることで、長良川の鮎文化を支えています。
さて、始めにもお伝えした「世界農業遺産」は、歴史や産業などだけでなく、人の暮らしも含めての認定です。そのことを実感したのは、晩御飯に蒲さんのご自宅にお招きいただいたことでした。
長良川の地元食材「モクズガニ」の食べ方をレクチャーしてもらいますが、その先生は蒲さんのお子さんたち。慣れた手つきで、蒸すための縛り方から、食べ方まで上手に教えてもらいました。
子ども達にとっては当たり前の食卓も、私たちにとっては特別な時間。
海や森と繋がる川、その川と営みを共にする皆さんの生業、そして季節ごとに川の恵みを味わう家庭の食卓。長良川を中心に、一人一人が繋がりを持っていることを体感したツアーでした。
ご案内いただいた皆様、本当にありがとうございました!
この出会いを発酵デパートメントで伝えていければと思います。季節に合わせた長良川特集を企画しますので、お楽しみに!
(発酵デパートメント 黒江)