ぶどうをギュギュッと絞った「土と種の味がするぶどう酒」は恵みの味がする

発酵デパートメントの商品担当、こんどうは言いました。「このワインは本当に土とぶどうの種の味がするんですよね。本物の土と種食べたことないけど」と。
そう、「土と種の味がするぶどう酒」はゴクリと飲むと、こりゃ恵みの味だ!と頭の上に電球が光る味。ぶどうの本当の美味しさがなんなのか、教えてくれるワインなのです。甲州ワインをよく飲まれる方は、どっしりした味わいに少しびっくりするかもしれません。その味の正体について、マルサン葡萄酒の代表若尾 亮さんにお話を伺いました。


若尾果樹園・マルサン葡萄酒
若尾 亮さん

ぶどう栽培は江戸時代より約300年続く、勝沼宿の最古参、若尾果樹園 マルサン葡萄酒の代表取締役。2011年4月に33歳で代表となり、新世代に継承する使命を胸に静かに熱く燃える男である。バンドマンでぶどうの収穫箱にレコードを収納している。


▲はっこうマルシェの様子

ー「土と種の味がするぶどう酒」は発酵デパートメントのオリジナルワインとして2020年に発売して、今年は2年目。発売を待ってたお客様も多く、先日開催されたはっこうマルシェでも大人気でしたね。

ありがとうございます。発酵マルシェでは嬉しい反応をたくさんいただきました。ご時世が落ち着けば、ワインを飲み比べながら食事のペアリングを楽しむメーカーズディナーもやってみようか、という話も出たほどです。


▲ピンクがかった甲州ぶどうの皮の色が出て、ややオレンジがかった色合いに

ー実際飲んでみて、ぶどうのフルーティさだけでなく渋みや旨みが感じられて、存在感があるなぁと思いました。一般的な甲州ワインの淡麗で酸味のきいた味わいのイメージとは真逆ですよね。どうやって作られているのでしょうか?

一般的な白ワインはぶどうを収穫した後、圧搾機で果汁を絞り発酵させて、必要に応じて熟成させたのちに瓶詰めをします。一方、甲州ワインは圧搾機にかけるときに優しく絞って、果肉部分のみから果汁を得る場合が多いのですが、「土と種の味がするぶどう酒」はその逆。皮や種も含めてぎゅっと果汁を絞って作っています。最終的に、出来上がったワインとウチの看板商品である「百」をブレンドし、甲州らしいフルーティさを残しつつ、皮と種の味わいが感じられるように仕上げています。

ーブレンドしている「百」はどんな味わいなんでしょう?
フレッシュな味わいでありながら、繊細な甲州ワインとはひと味違うどっしりさが特徴です。「百」は「土と種の味がするぶどう酒」を作るヒントとなったワインでもあります。そもそも、ぶどうを強く絞るのは新しい製法ではないんですよ。

我が家は、ワイン用以外のぶどうの栽培もしていて、ぶどうが食べごろになる秋は、ぶどうを出荷する作業やぶどう狩りの観光対応に追われます。そうすると、ぶどうを絞る時間はほかの作業の合間に限られてしまい、必然的につきっきりで繊細に絞るというよりも、大胆に強く絞る製法になるんです。そこで、限界まで絞ったワインを作ったら面白いんじゃないか、と考えて試してみました。


▲マルサン葡萄酒の工場内

ー「土と種の味がするぶどう酒」は、昔ながらの製法の進化版なのですね。

そうですね。同じ理由でウチのワイン用ぶどうは収穫時期が遅くて、早摘みの甲州ぶどうを使ったフレッシュなワインに比べ、酸味が柔らかくなります。ウチのスタンダードでもある遅摘み、絞り強めで作られる味の方向性が、個性として表現できたと言っていいかもしれません。

フルーツや野菜って皮や種のほうが味わいや香りが強いんですよね。甲州ぶどうは他の品種よりも皮が厚くて、強く絞っても美味しいのができそうだな、という予感はありましたが予想を上回る出来でした。

ー今回は新たな試みとのことですが、発見はありましたか?

わたしがここを継いで10年になります。この10年はやらないことを決めて、父の代から変わらず作り続けているワインを誠実に作る日々でした。やらないことの一つが、奇をてらうような新しい商品づくりはしないことでした。
新しい商品を作ることはもちろんいいことだけど、同じ商品を長く作り続けることも同じくらい大事にしたい。色々とお話をいただいたこともあったのですが、お断りしていました。

正直、「土と種の味がするぶどう酒」にチャレンジするまでは、長い付き合いのヒラクくんでも「新しいワイン作ってよ」って言われたらどうしよう、と思っていたぐらいです…。

ー去年「土と種の味がするぶどう酒」を作られたのは、心境の変化があったのでしょうか?

ウチのワインが歩んでいく方向性少し見えてきて、10年間ワイン造りに向き合ってきた自信もあったのかもしれません。ここ数年で面白い話をいただいて、チャレンジしたいと思う機会も増えました。

ーオーナーの小倉ヒラクも発酵デパートメントで商品を作るようになって、お互いのタイミングがぴったりあったのですね。若尾さんが今、目指していくものってありますか?

あえて、明確には考えすぎないようにしています。

今、甲州ワインの造り手は、世代こそバラバラですが団結力は飛び抜けています。勉強会として、バリスタにコーヒーの香りをテーマにレクチャーをしてもらったり、ワインづくりで気をつけなければいけないオフフレーバーを学んだり。飲み会を開いて、お互いが作ったワインを飲みあって、アドバイスを受けることもしょっちゅうです。全てが山梨で作るワインの味のボトムアップにつながっていて、土地の力を感じますし、同時に「文化」ってそうやってゴールを決めずに自然に作られるものだよねとも思います。

山梨のワインは自家消費用ではじまって、美味しい辛口ワインとして広まり、近年では海外へも進出しています。外へ発信していくことも重要ですが、内に向けるエネルギーはしっかり固めておかないと。だから、ウチがやるべきはローカルに根ざしていくことだと考えています。


「土と種の味がするぶどう酒」は、若尾さんの山梨やワインにかける愛と、山梨のワイン醸造家の結束で作り上げられた賜物。口に広がる味わいが山梨のワインの文化を形作る1ピースなのだと思うと、ワクワクしてきます。

ローカルに根ざしたワインだからこそ、らっきょうや奈良漬など、日本の伝統的な味にもぴったり。上澤梅太郎商店のらっきょうのたまり漬けと食べれば、乾杯と同時にするりとお腹へ消えていってしまいます。

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