シリーズ『日本各地の手前みそ』では、全国のユニークな発酵食品や各地で起きている新しい醸造文化のムーブメントを紹介します。vol.3となる今回は秋田県横手に根付く麹のお話。
麹を使った手づくり文化
そもそも麹とは何かというと。味噌や醤油、日本酒など和食の主たる発酵食品の発酵スターターとなる、米や麦などに麹菌という特殊なカビをモコモコに生やしたもののこと。
近年の塩麹や甘酒ブームでどこのスーパーでも見かけるようになりました。この麹自体は食べても美味しくはなく、他の食材と組み合わせることで機能するもの。なので食材を手づくりしなくなった現代においては大半の人が使いかたを忘れてしまったのですが、横手の人たちは途切れることなく麹を使った手づくりの伝統を継承しているのですね。
その証拠に、横手の街角には麹を一般向けに製造・販売する「麹屋」が十数軒も残っているのです。麹屋さんがあるということは、麹を使って味噌や甘酒を手づくりする人が一定数以上いるということ。この文化が健在なのは、福島県の会津若松や富山県の南砺など、数えるほどしか残っていません。
地域に根付いた麹屋さん
▲秋田らしい飯寿司といえばハタハタ寿司も有名
横手で100年前から続く羽場こうじ店の麹は僕のお気に入り。商売柄各地の麹屋さんを訪ねるのですが、全国でも五本の指に入るハイクオリティ麹を作っています。
秋田の素朴なお母さん…に見えてめちゃこだわりの強い麹職人の絹子さんは、江戸時代と変わらぬ麹蓋(こうじぶた)を使った手間かかりまくりの麹づくりを守り続けています。昔、一部を機械化したそうですが納得いかず、また昔の作りかたに戻したそう。米麹の粒を割ってみると、中まで菌がびっしり生えていて、甘みたっぷり!絹子さんの麹を贅沢に使って作った味噌汁はまるで甘酒のよう。
麹菌の糖分をつくる酵素が極限まで引き出されたハイスペック麹、気になるお値段は都内のスーパーで売っているものの1/2。お店にしばらく座っていると、ひっきりなしにお客さんがやってきてキロ単位で麹を買っていきます。
そのなかの一人のお母さんに「買った麹、何に使うんですか?」と質問してみました。すると「塩と米と混ぜて漬け床にして、ニシンの寿司をつくる」とのこと。そう。横手はじめ秋田には、麹に魚を漬け込む飯寿司(いずし)の文化があるのです。お母さんのニシン寿司をおすそ分けしてもらったのですが、甘酸っぱくて旨くて、秋田の田んぼに吹く風のように爽やかで素朴な味わいでした。
(小倉ヒラク著)
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