前回のあらすじ
このコラムでは、料理ユニット・南風食堂主宰の三原寛子さんがさまざまな発酵物たちと戯れていきます。第一回のテーマは「鮒鮓(前編)」。前編ではその魅力や鮒鮓の師匠・花さんのことなどについて語っていただきましたが、今回の後編は実践編。前編はこちらから。
絶品すぎる鮒鮓の汁もの
後半は鮒鮓のいただき方を。
当たり前だけど、一番おいしいのは、そのまま食べること。切ると酸化していくのか、できれば、食べる直前に切る方がおいしい気がする。身はなるべく薄く切り、頭と尾も残しておく。
とろとろになったお米のはなやかな甘い香りと発酵味、鮒のぎゅっと詰まった旨味が口の中で交互に押し寄せる。よく狼とか熊の匂いが少ししただけで、ほかの動物たちが動けなくなると言うけれど、生命力強い鮒を骨までとろとろにするくらいの乳酸菌たちの力強い発酵の野生を前に、わたしの体内のたくさんの菌たちが服従するのがわかる。鮮烈。「味」というより「体験」。他にこんな味を知らない。
頭と、尾は汁ものにする。
器にほんの少しのごはんを盛り、鮒の頭と尾を乗せる。ちょっと鰹節を落とし、アツアツのお湯を注ぐ。番茶でもいい。醤油を一たらし。熱で骨が柔らかくなり、軟骨がぷるぷるのゼラチン質に変容する。鮒の脂が汁に溶けて滲み、発酵したお米の酸味もまろやかになり、甘く香り、うっとりとするほどおいしい。是非ともお試しいただきたいです。
汁にも旨味が溶けて絶品。そして、すべてを吸ったご飯がまた絶品
異国の鮒鮓アレンジレシピとは
あとは鮒鮓のアレンジ編。
わたしが大好きなのは、日本発酵生活協会(HACCOOP)主宰で、表参道の発酵居酒屋5の監修もしている鈴木大輝くんがつくってくれた鮒鮓パスタ。贅沢にまるまる一匹の鮒鮓を使い、かぶのすりおろしと豆乳でまろやかに仕上げた鮒鮓パスタ。飯(いい)の酸味がアクセントになって、鮒鮓の良さが新しいかたちで花開いて、そのおいしさに感動しました。
今、ちょうど、発酵デパートメントのランチの米麺の開発をしていて、ちょっと息抜きに、昆布+椎茸+野菜出汁少々に、鮒鮓の飯(いい)を合わせて、いわしの魚醤「いしる」を少し足して、辣油を垂らしたちょっとアジア風の鮒鮓米麺をつくったのだけれど、それもとってもおいしかった。
あったかい麺。おいしいなあ。
アジアといえば、ミャンマーでは、鮒ではないのだけど、魚のなれ鮓を市場で売っていて、どう食べるのかを聞いたところ、玉ねぎのスライスや、青唐辛子、乾燥赤唐辛子と混ぜたなれ鮓のサラダのレシピを教えてくれた。
ミャンマーの市場で見かけたなれ鮓と、なれ鮓のサラダ
いずれも発酵の迷宮に強制的に迷い込ませる幻惑的かつ力のある野性的な味で、鮒鮓のポテンシャルに改めてひれ伏します。
魔法の鮒鮓を求めて
だけれども、わたしのNO.1鮒鮓は、やっぱり師匠の花さんがつくった鮒鮓なんだよなあ。
強さと優しさと生命力と上品さが同居していて、口に入れるとエネルギーが全身に伝わって「ああ、この味を食べることができて生きていてよかった」と思う。
何回つくってみても、どんなに「今年はおいしくできた」と思っても、花さんの鮒鮓を食べると、その圧倒的さに打ちのめされる。この鮒鮓の発酵の秘訣は何なんだろうって毎年思う。
ああ、こう書いていたら身体が花さんの鮒鮓を求めて、よだれが止まらない。
花さん、どうかいつまでもお元気で長生きして、これからもあの、魔法みたいにおいしい鮒鮓をつくってくださいね。
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