発酵デパートメントオーナー小倉ヒラクが、各地の旅で出会った発酵文化や、お店の運営で考えたことをお届けします。長文だったり一言だったり、日記形式で気軽に書いてます。
前回>>#02 明日の自分のために書く
みなさん、発酵してますか?
今回から数回にかけて、発酵デパートメントをオープンしたばかりの時につけていた日記から、当時のことを思い出してみたいと思います。
発酵デパートメントは2020年4月、新型コロナウイルスによる緊急事態と同時に開店しました。
下北沢再開発の目玉であるBONUS TRACKという商業施設のメインテナント。本来なら最も宣伝できるはずのオープン直後のボーナスタイム、敷地はみごとに無人!
ゴーストタウンのようになった下北沢で、僕は近所に住むスタッフ二人(電車やバスで来ないといけない遠くのスタッフは出社禁止)と、毎日届く商品の段ボールを開けて、検品して、売り場に並べて…ということを日々繰り返していました。
僕含め3人みんなお店の素人だったので、売り場づくりのやり方がわからず、毎日毎日どんな風に商品を並べたらいい感じになるのか、棚をガラガラ右から左へ動かして、醤油やお味噌を上にしたり下にしたり、おままごとのような売り場づくりに没頭していました。
なんせ、めちゃくちゃヒマだったからね!
売り場から圧を出せ!
↑オープン当時の調味料棚。おなじみの商品がいっぱい↑
さて。
そんな試行錯誤期間の時に気づいたことがあります。
元デザイナーの僕を筆頭に、クリエイティブ畑のチームで始めた発酵デパートメント。当初はデザインのセレクトショップのように商品を作品を展示するがごとく一つ一つを独立させてシュッとした感じで陳列していたのですが、毎日レイアウトをいじっているうちに、
「なんか…この方法だとあんまり美味しそうじゃないな?」
ということに気づいたんですね。試しにデザイン的陳列とは真逆、段ボールに入ったままの商品をそのまま棚のうえにドサッと置いてみたところ、断然買いたい気持ちになる。無造作に置かれたその姿から、
「ま、毎日何箱も売れちゃうオイラだからさ、別に陳列方法なんて何でもいいわけよ」
という泰然としたオーラが放たれているではないか…!
その日から、商品の陳列方法を変えて、道の駅に売ってそうな、おばちゃんがテプラでとりあえず作りました!みたいなパッケージの商品が段ボールやこうじぶた(麹をつくる箱)にドドッと置かれている、という今の発酵デパートメントっぽいメソッドができていきました。
素敵=美味しそう、ではないんですね。
これに気づいた瞬間、僕は(元)デザイナーとしての呪いが解かれた感がありました。大事なのは美味しそう、面白そうというワクワク感。デザイン先行で売り場をつくると、整った素敵さがワクワク感を殺してしまうこともあるのです。
美味しそうなオーラを放つ(必ずしもイケてるパッケージデザインではない)商品が、みちみちっと棚に並び、楽しげなPOPが添えられる…すると売り場から「圧」が出てくることに気づいたのもこの頃。売り場自体から
「何か一個くらい手に取らないと、帰れないぜよ…?」
というメッセージが放たれている感覚。この感覚はスタッフのみんなが売り場づくりをするようになった今でも大事にしています。細かいところはお任せで、とにかく「圧」が出るまで作り込んでいるかどうか。それがあれば、来てくれるお客さんの目がキラキラして、ちゃんと売上もついてくる。
そんな、誰も来ない店内で、延々と実験を繰り返していた2020年の春。冷たい雨が降り止むゴールデンウィーク過ぎ頃から絶望的な事態が好転してきました。
次回に続く。
◆おすすめ商品◆
発酵デパートメントがオープンした当初からずっとベストセラー、戸塚醸造のお酢。なかでも発酵デパートメントでしか買えない、タンクの下のほうに溜まったうま味いっぱいのにごり酢。砂糖や酒、醤油を加えなくても三杯酢のように使えるリッチなお酢です。まずはシンプルに酢の物に使ってみてください。