発酵デパートメントオーナー小倉ヒラクが、各地の旅で出会った発酵文化や、お店の運営で考えたことをお届けします。長文だったり一言だったり、日記形式で気軽に書いてます。
みなさん、発酵してますか?
発酵デパートメントをオープンしたばかりの時につけていた日記から、当時のことを思い出すシリーズの第二回です。
2020年4月、新型コロナウイルスによる緊急事態とともに始まった発酵デパートメント。開店から数週間はほとんど来客がなく、ゴーストタウンのような下北の街でひっそりと明かりを灯しておりました。
思い出すのは開店して2週間ほど経った雨の水曜日。一日で来たお客さんはたった一組。スポーツ整体をしているお兄さんが、わざわざ電車に乗って下北沢にやってきて、調味料を色々買い込んでくれました。お兄さんが帰った後、誰もいない静まりかえった敷地で、雨を眺めながら
「このまま僕たち、どうなっちゃうんだろう…?」
と心細かったのをよく覚えています。もしこのお兄さんがいなかったらきっと心が折れていた…!どうもありがとうございます。
そんなどん底の状況が、5月中頃のGW明けから少しずつ好転していったんですね。ご近所さんたちが、醤油やお味噌などの調味料を買いに訪れるようになったのです。来店理由を聞いてみると、
「自炊に飽きたので、面白い食材を買いに来た」
と言うではありませんか。確かに、街の飲食店のほとんどはお休み中。一ヶ月も毎日自炊オンリーなら、自分の料理の味に飽きるのも当然。
そこで、来たお客さん一人ひとりの事情を聞いて、希望に合いそうな個性派の調味料を選んでいきました。さっぱりした煮物がつくりたければうすくち醤油、コクのある味噌汁が作りたければ八丁味噌、だし巻き卵には白醤油…。
「使ったことないけど、大丈夫かしら?」
と不安そうな面持ちで帰るご近所さん。数日後に、今度は友人も連れてきて、
「この人にも選んでくれますか?」
嬉しかったのが、料理好きな妻に連れてこられた旦那さん。その時は興味なさげだったのに、2週間後にひとりで来店して
「こないだとは別の醤油、選んでくれないかな?」
とニコニコ。
借金背負ってオープンしたものの、コロナ禍でそのままクローズかしら?と思っていたら、自炊需要とご近所さんの口コミでお客さんがだんだん増えていった発酵デパートメント。オープン間もなくから足繁く通ってくれていた料理家のNさん、当時のことを振り返って、
「あなたたちのお店行くとね、みんな明るかったじゃない?そんなあなたたちに私も元気もらっていたのよ」
とお礼の言葉をかけてもらいました。
当時の僕たち、あまりにも素人すぎて事態の深刻さすらわかっていなくて、とにかく毎日いっしょうけんめい。段ボール開けたり畳んだりしながら、わあわあ言って売り場づくりに熱中していたのでした。
ビギナーだからこそのカラッとした明るさ。それが誰かの救いになるなんて。元気は暗い世の社会を灯す明かりなのです。
次回に続く。
◆おすすめ商品◆
オープン当初、ご近所さんから「ちょっと変わったものが置いてある調味料屋さん」として口コミで広がっていった発酵デパートメント。
そのきっかけになったのが、このキッコーゴの五郎兵衛醤油。
なんと東京都で唯一の醤油蔵。しかも麹づくりから自社で行う、江戸から続く伝統的な製法です。量販店で意識せずに買う醤油とは大きく違うのは香り。肉や野菜で炒めものをつくる時に、フライパンにこの醤油を垂らすと、香ばしくて官能的な香りがキッチンに広がってきます。
お醤油は塩分が高いので、ビギナーだと味の違いはなかなか分かりづらいのですが、香りの差は歴然。複雑でかぐわしい香りが料理に深みをもたらし、しかも値段もリーズナブル。話題になった当時は、段ボールから出してすぐに完売してしまい、そのまま段ボールのフタを切った状態で並べておりました。
ふだんと違う醤油を使ってみたい!というアナタにぴったりのお醤油です。