シリーズ『日本各地の手前みそ』では、全国のユニークな発酵食品や各地で起きている新しい醸造文化のムーブメントを紹介します。vol.6となる今回は青森県のごどのお話。
▲納豆と麹の粒が酵素によって溶けて独特の質感に
青森県十和田地方に、不思議な納豆があります。数えるほどの地元のお母さんたちがひっそりと受け継いできた『ごど』。醸造を専門にしている者からするとびっくり仰天のとんでもないハードコア発酵食品なのですね。
謎の発酵食品『ごど』
『ごど』とは何か。納豆に麹を混ぜてさらに乳酸発酵させた、納豆×麹×乳酸発酵という、ラーメンのトッピング全部盛り状態の複合発酵納豆です。見た目は納豆と塩麹を足したようなドロッとしたテクスチャー。発酵が浅いうちはご飯にかけたりおかずとして食べたりし、発酵が進んでドロドロに溶けたものは醤(ひしお)のように調味料として使ったりも。
この不思議なレシピができた理由を地元の人に聞いてみると。十和田はじめ青森県南部地方は、かつて湿地が多く冷涼な気候で稲作が難しく、農家たちは豆を主食として多く食べていたよう。なので各家庭では当たり前のように納豆が手づくりされていました。
で、納豆手づくりしたことある人だったらわかると思いますが。納豆は発酵させるのに40℃強の温度が必要。昔はいろりやコタツを活用して納豆菌が発酵しやすいコンディションを作っていたのですが、熱の管理を間違えるとベシャベシャした、酸っぱくてイマイチな納豆もどきができてしまいます。
ごどは、そういう納豆もどきをなんとかして食べたい!そしてきっと麹を混ぜたら美味しくなるのではないか?という「もったいない精神」から出てきたものらしいんですね。ちなみに山形県はじめ東北の他地域にも麹と納豆を混ぜたレシピがあるのですが、このごどは塩分量が少ないゆえに、他の地域には見られない複雑系発酵が起こり、全く別種の食べ物になってしまうのですね。
クセになる禁断の味
▲ごどの仕込み写真。各お母さんで味の好みが違う
さてこのごどの気になる味はというと。納豆のネバネバ感に、麹の甘味や旨味、さらに乳酸菌の酸味が加わった複雑極まりないもの。スタンダードな発酵学では、麹と納豆は近づけるな!と言われるので、ごどは禁断の味覚。最初はそのパンチのある香りと味のクセに戸惑いますが、慣れると普通の納豆では物足りなくなる謎の魅力を備えています。
最近では、このユニークなローカル納豆が地元はじめ全国の発酵好き、食通に再評価されはじめ、ついにアンダー60歳でごどの文化を継承するニュージェネレーションが現れはじめました。ちなみにちょっと自慢ですが、青森県外ではじめてごどを作れるようになった人は、何を隠そう僕です。ふふふ…
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発酵デパートメント店頭では、ランチメニューでごど丼を提供しています。
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